プロジェクトストーリー
PROJECT STORY 01
プロジェクトストーリー
自転車にも、オートマチックの快適さを
Q’AUTO ― 全てのライダーにフィットするAI搭載自動変速システム
PROJECT MEMBER
-
R.Yさん
所属部署
BC事業部
技術開発部
NT開発1課
入社年 2020年 -
H.Sさん
所属部署
BC事業部
企画部
商品企画二課
入社年 2017年 -
T.Eさん
所属部署
BC事業部
宣伝企画部
宣伝企画課
入社年 2009年
PRODUCT
変速は全て自転車にお任せ!いつものようにペダルを漕ぐだけで、自動的に最適なギアを選択してくれるAIを搭載した自動変速システムのQ’AUTO(クォート)。シマノの長きにわたる挑戦が結実した新鋭の技術開発とプロモーションの裏側に迫ります。
「変速する」という常識を疑う
企画:自転車部品の開発・製造を生業とする私たちにとって、自転車の変速操作をすることはいうまでもない常識でした。しかしその常識は一般のユーザー様にとっては当たり前ではなかったのです。特に日本市場では、変速機がついていても使わない、変速がよく理解できず失敗した経験があるという人が少なくないという現実に直面したことが、シマノの自動変速機構開発の起点となりました。
ただ、自動変速によりライダーはギアを切り替える煩わしさから解放される一方、予期せぬタイミングで変速された場合のショックをなくすことが、安全面でも重要課題でした。それを解決したのは、先行開発していたLINKGLIDEという変速時のショックが少ないギアシステムです。最初は一部のMTB に採用されたものでしたが、それが後のQ’AUTO の自動変速の重要なバックボーンとなったことを、初めにご紹介しておきたいと思います。
AI制御に至った経緯とその成果
シマノは業界に先駆けて自動変速システムを開発し、世に出していましたが、理想的な変速のタイミングがライダーごとに異なるという課題が残っていました。
それに対応するにはAIによる学習機能が必要でした。
開発(ファームウェア担当):私は Q’AUTO のハブに内蔵されるマイコン(オート変速の頭脳)のソフトウェア開発を担当しました。
Q’AUTO は、スピード、ケイデンス(ペダルの回転数)、斜度などをセンシングして走行状況を判断し、変速のタイミングを決定しています。学習機能が適切に作用するためには、斜度などの入力情報を正しくセンシングするとともに、土台となるルールベースの制御が適切に動作することが重要です。
たとえば変速の好みはライダーごとに異なりますが、加速時や登坂時の望ましい挙動には共通するルールも多く存在します。このため、「オッカムの剃刀」の原則に基づき、アルゴリズムをできるだけシンプルに仕上げることを重視しました。学習機能そのものはシマノとして初の試みではありませんが、Q’AUTO では変速スイッチ操作をトリガーに逐次学習を行う、いわば“人間をセンサーとする”機械学習を搭載している点が大きな特徴です。Q’AUTO はセンサー情報にもとづいてライダーの変速操作を常に予測しており、その予測と実際の変速操作が一致した場合にのみ内部パラメータを更新します。これにより、ランダムな変速操作では学習せず、乗れば乗るほどライダーの好みに寄り添う挙動を実現しています。昨今の LLM と比べれば極めて小規模ですが、マイコンの計算能力やメモリ制約の中で実現している点は組み込み開発ならではで、大変興味深い部分でした。
また、バッテリーではなくハブダイナモを電源として動作するため、特に低速回転時には消費電力を抑えることも Q’AUTO 特有の開発要件でした。シマノという会社から組み込み・ソフトウェア開発を連想される方は多くないかもしれませんが、魅力的な製品を生み出すうえで非常に重要な要素となっていると感じています。
「しなくていいこと」に
興味を持っていただくために
宣伝企画:製品発表前に、Q’AUTOを搭載したデモ車を使って体験会を実施しました。坂道の多い東京での実走でしたが、30~40代の女性の参加者からは「こんな坂はいつも自転車を押して登っていた」、「E-BIKEではないのに楽に走れた」など好意的な声をいただきました。
製品が「できること」を宣伝するのは簡単ですが、「しなくていいこと」を理解していただくためには工夫が必要です。「何もしなくていい」ことに興味を持っていただけるよう、今後もお客様に寄り添った提案を続けていきたいと思います。
次の時代の
「あたりまえ」を目指して
E-BIKEの技術革新が目覚ましい中、自転車に乗る全ての人たちに、ペダルを漕ぐ楽しさを知ってもらいたいという想いがありました。
開発(ファームウェア担当):多くの方々に試していただき、結果的に全員から、学習機能のおかげで、少し乗っていたら馴染むようになったという声をいただきました。こうして、自分が担当した製品を、いろんな意見を受けて改善していくことでモチベーションが高まり、それが製品の品質にもプラスに働いたのはありがたい経験でした。
スポーツとして乗る場合は自分で制御したいライダーが多いですが、ハンドルのどこを握っていても自動変速されるので、意外とドロップハンドルの形状と相性が良く、充電不要なので長距離を走るグラベルにも向いています。これが普及して、「あって当たり前」になればいいと思います。今後は、コストを下げて、街乗り用のシティサイクルなど、幅広い種類の自転車にも搭載してもらうことを目指しています。さらに、まだお客様が気付いていない潜在的なニーズに応える製品をつくっていきたいです。
自転車と電子・電気デバイスの融合が盛んになされている昨今、ダイナモ発電により、電源を持たずに電動デバイスと融合し、環境に負荷をかけずに健康とよろこびに貢献するQ’AUTO はシマノの掲げる企業理念に忠実な製品といえるでしょう。